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特別養護老人ホーム経営戦略 【JSドクトリン】 -特養ルネッサンスをめざして- (平成15年3月11日) 特養復権にかける
個別・グループケアの実践(ハードとホテルコストが超えられれば小規模生活単位型)
自立、安心、安寧の死、ターミナルケアの実践
地域にみあった施設、多機能・効率化への挑戦
すべてにわたるリスクマネジメントの徹底
エビデンス(根拠)に基づく、情報発信、実践の蓄積を!
はじめに
介護保険制度が施行され3年が経過した。初めての介護報酬見直しは、賃金・物価水準の下落、事業経営状況、在宅サービスへのインセンティブなどを勘案して、全体平均2.3%の引き下げ(在宅+0.1%、施設-4.0%)で決着をみた。なかでも指定介護老人福祉施設は、「利益率12.2%」が象徴する形で、厳しい削減環境下にあった。いずれにしても、今回は全国老人福祉施設協議会の組織を上げて「適正な介護報酬の水準確保」運動を展開した結果、平均4.2%(既存型で実質-4.9%)の削減となった。
課題の第1は、
新たに設けられた「小規模生活単位型指定老人福祉施設」(個室・ユニットケア)が、これからの標準として政策誘導されることが明らかになってきたなか、既存施設の位置付けをどうするか、ケアのあり様をどう考えていくかである。介護報酬改定以降の厚生労働省の動きをみると、個室・ユニットケアをハード面から硬直的に成立させようとしている、個室・ユニットケアを究極の居住環境ととらえ、施設・在宅の中間に位置する第三類型として想定している、など指定介護老人福祉施設の介護保険制度における位置付けをも変える大きな課題として浮上してきたことである。このまま、特養ホームの優れた実践、利用者ニーズに応えるサービスのあり様を老人福祉施設の側からエビデンス(根拠)に基づいた提言をしていかなければ、脱施設化(特養解体)の動きが、行政主導で進められていくことは必至である。
課題の第2は、
特養ホームに対する民間参入が全国に拡大される動きが、政府の構造改革政策として具体化していくことにある。21世紀の福祉・介護・医療等のサービスは、「多様な供給体による提供と利用者の自由な選択」をキーワードに、「民に任せられるものは民に」の流れにある。こうしたなかで、特別養護老人ホーム=社会福祉法人が、「慈善・博愛」(非営利)故に非課税等の優遇措置に甘んじていけるのか、多くの規制と行政指導の枠の中で、真に公益法人として使命を果たしていくために何を改革し、何に取り組むべきかを国民に提示していかねばならない。経営努力のもとに、質の高いサービスの提供とともに、地域ニーズに即したサービスの開発・提供をはかっていかねばならない。
課題の第3は、
少子高齢社会における社会保障制度のあり方、給付と負担のあり方が問われており、根本的な改革が政治課題となっている。高齢者一人ひとりの自立支援と尊厳を擁護する社会を築くために、老人福祉・介護を担ってきた老人福祉施設関係者が、国民視点を尊重し利用者の声を代弁する役割を発揮しなければならない。
今、我々は先達が培ってきた老人福祉・介護を、21世紀に開花させなければならない。魅力ある特別養護老人ホーム創造をめざし、国民・利用者のニーズに応える介護保険制度とすべく、すべての経営者、管理者、職員が一体となって、「戦略的実践」にまい進することを呼びかけるものである。
1 新たな特養ケアのあり方 ―ケアサービスのトータル化をめざす―
介護支援専門員の役割発揮
介護支援専門員の役割は、個別ケア実践のマネージャーとして基本的役割を担うことにある。
介護支援専門員は、適切な施設サービス計画の立案やモニタリングを行い、実施状況やカンファレンスについての記録を徹底する。
そのため職場内においては、介護支援専門員の中立・公正な業務姿勢を支える組織内環境を整備する。
すべての施設で【個別グループケア】を実践する
特養ホームにおける「小規模」、「個別」、「生活リズムの尊重」、「生活の中のケア」、「関係性の尊重」を基本理念としてケアサービスの体系化を進める。
すべての特養ホームで「個別・グループケア」を展開するにあたり、チームによるケアスタッフの技能(特に観察眼、コミュニケーション能力)、管理・運営者の能力が課題となることから、これら技能習得を進める。
更なる発展形として、「小規模」、「多機能」、「地域密着型」のケア体系が思考されているが、そのためには、高齢者のQOLの向上と多機能ケアによる要介護度改善を目指し、「何が生活の質を作るのか、質が向上するというのは、どのような場合か」など検証、分析しながら、方法論、前提条件などを整理し、積極的に介護の体系化を図る。
ターミナルケアの実践
特養ホームは、限られた施設機能の中で、全人格的関わりを通して「尊厳のある死」を模索し、利用者と家族に安寧の時を提供してきた。死の受容と終末期のケアについては、利用者、家族ならびに医療機関との信頼関係を構築し、地域や利用者から最も信頼を寄せられる責任と役割を認識すべきである。
家族には医学的根拠に基づいた病状、治療効果、さらには施設内機能、介護・看護職の存在を十分に説明した上で、「苦痛無き終末」、「不安無き終末」を目標に、ターミナルケアを行うべき専門的技術を確立する。
特養の利用者は、在宅生活時よりも高齢者医療の恩恵に預かることができるのであり、今後はより地域医師会の協力を得、利用者の死生観を尊重したターミナルケアを実践する。
特養ホームにおける終末ケアの方針は、
施設理念に基づいて運営方針や援助目標に明記されていること
入所者、家族に説明が行なわれ、意思確認が済んでいること
職員に「死の教育」がされていること
痴呆ケアの実践
痴呆性高齢者のケアにおいて、「痴呆性高齢者の評価とケアプランの実行」、「施設における痴呆性高齢者の人権問題とその擁護」、「痴呆性高齢者の施設環境」が重要となる。
痴呆性高齢者のケアは、痴呆性高齢者への援助にととまらず、ストレスを抱える家族へのケア、高齢者介護に携わる者の倫理意識やケア技術の向上という視点を踏まえて、行うものである。
老年精神医学分野における診断治療マニュアルの中から、介護現場や在宅において、常用できるマニュアル作りを推進する。
治療可能な痴呆は看過せず、家族の負担感を軽減するという強い意志を持ち初期診断や適切なケアにあたる。
病気の治療や入院などによる痴呆症状の悪化等については、地域医師会の理解や協力体制を構築し、問題解決にあたる。
地域での生活の充実、地域住民の痴呆症への理解を進めるために、痴呆性高齢者研修/研究センターを修了した痴呆ケア指導者と連携し、地域に視点を置いた活動のための協力体制作りを自治体と協同し、施設の資源を地域に還元する。
生活モデルとしてのリハビリテーションの実施
特養ホームは、身体機能の低下した高齢者への自立支援、そして自己決定能力に障害のある高齢者への自律支援を具体化するための、個別性に視点をおいた新たなスキルを開発しなければならない。
心身機能・活動・参加のレベルにおいて生命の維持・様々なアクティビティ・人間らしく生きる権利を実現する「生活リハビリ」の実践に取り組む。
利用者の、生活の場での「できるADL」(訓練・評価時に一時的に発揮される能力)と、「しているADL」(実生活での実行状況)を正しく評価・分析し、ADL向上に努める。
利用者の自己決定に基づき目標を共有し、特養ホームのあらゆる生活場面を通して、専門スタッフを含めたチームケアにより「生活モデルとしてのリハビリテーション、機能訓練」を実現し、要介護度の進行(重度化)をできる限り防ぐことに努める。
行動制限とリスクマネジメント
利用者の生活の場として、フラストレーションを感じさせないケアを提供することは、個別ケアを進める上でも重要な視点であり、身体拘束など行動制限は極力避けなければならない。職員同士の日常的な情報交換の不足を克服し、チームケアとカンファレンスの徹底により安易な拘束を許さない風土を確立する。
高齢者のQOLを利用者の主観的な満足度として着目するとともに、家族にもインフォームドコンセントの機会を与えなければならない。
ケアの個別化と業務の標準化のシステム化を急ぎ、自立支援の視点にたった自主的なリスクマネジメント・マニュアルを作成する
経営管理とはリスクへの対応能力であり、ケアだけでなくすべてのサービス管理、職員管理、財務管理、情報管理など総合的なリスクマネジメントを確立する。
ケアの質の保障と第三者評価
介護の質の向上、より個別性の高いサービスの提供を目的に自己評価を行う。評価の項目としては、運営基盤の強化、居住環境の整備、ケアプランとその実施、苦情相談と情報開示、地域社会との連携、人材の養成確保などがある。
また第三者評価団体との連携を深め、ケアサービスの質を点検、保持、向上させる。誰もが良質のケアサービスを求めており、情報開示によってより透明性を高める経営に繋げるべきである。
2 人材養成の重要性 ―「人財」こそ特養の命―
人事考課による能力開発
サービス提供の担い手である職員の育成は、法人理念の具現化である。果敢に業務改善に向かっていくことのできる組織体質を備えなければならない。
職場を取り巻く環境の変化につれて、組織で働く職員の価値観も変わり、人事考課の果たす役割と機能が重要となってくる。人事考課が職員個々の質向上に連動するためには、職員にも参画を求め、衆知を集めてより大きな成果を挙げていくことに留意する必要がある。
老人福祉介護現場は、高齢社会を支える教員や一般学生の人間教育の場を提供する役割も担っていることから、命の尊さ、人格の尊重という基調となる事由についても、体系的に学習ができる場とする必要がある。
介護保険サービス管理士と介護チーフの重要性
特養ホームにおける高齢者の自立した生活を保障するために必要不可欠な人材、福祉固有の介護を発展させる基礎として、介護保険サービスの質の管理、ケアスキルの向上、必要なサービスの開発・拡大を支える専門職人材の養成を進める。
多様な事業体(供給体)による競合下にあってサービスに対する多様なニーズに対応しくために、サービスの品質管理はもとより介護保険事業の安定的継続的な運営管理の育成を図る。介護保険サービスを管理する者=「介護保険サービス管理士」と、実際の介護現場で中心的な役割を果たす者=「介護チーフ」の体系的な養成体制を構築する。
3 経営責任と自己改革 ―成長と発展の基礎づくり―
事業目標の構築
「事業の目標は、事業の存続と繁栄に直接かつ重大な影響を与えるすべての領域に必要である。」(P.F.ドラッカー著【現代の経営】)
地域社会における非営利・公益法人として、全ての介護保険事業を経営する社会福祉法人は、高齢者福祉・介護の事業目標(理念)を住民・職員集団に掲げ、目指すべき成果とその手段を明確にしていく。
経営リスクに耐えうる組織づくり
明確な目標(理念)を構築し、経営者の意思として職員それぞれに理解・徹底を図り、あらゆる機能を駆使して最も効率的に活用しうる組織体を目指す。
経営者は、組織に対しそれぞれの使命、目的、機能をブレイクダウンしていくことを通して、多様な経営リスクを積極的な組織行動により解決し、経営の安定化を図る。
指標に基づく経営分析
市場原理に基づく介護保険事業の経営体として、月次報告書や前年度対比収支などによる経営状況の把握と経営環境への対応能力の向上を図る。
環境的要因を踏まえて、定量分析(財務諸表数値データから変化の内容と方向性を把握)と、定性分析(将来に対する指標として経営管理、サービス管理等数値データ以外の情報分析)を行い、事業を経年的かつ客観的に診断・評価する。
措置時代との訣別
補助と規制の措置時代は終焉したにもかかわらず、依然として措置時代の感覚と視点で施設経営をしている状況から脱皮する。
40年間、公の支配の下で行政の代行機関的な存在であった社会福祉法人を民間活力の一員として、主体的な裁量を獲得・発揮して、「市場評価に耐えうるサービス」を提供する事業体に変革していく。
4 施設経営の多機能化と適正な経営管理 ―ディスクロージャーの徹底―
介護保険事業経営実態調査結果と介護報酬の改定
今後とも経営実態調査による収益率は、介護報酬改定の際の主要データとなる。この収益率が、利用者が求めるサービスの対価として評価されるものであることに、説明責任を有していることを自覚する。
国民に対する情報公開に耐えうるものであり、かつ保険者、被保険者、事業者の理解の上に成立する経営に努める。
経営効率を高める定員の確保
政策的に整備された50床特養は全体の6割強に上る。経営効率を高め、多機能サービスを戦略的展開する観点から適正規模として70~80床への増床整備を図る。
会計制度の徹底と会計処理の習熟
社会福祉法人が行う介護保険事業に関わる会計処理は、経営実態調査等による正確なデータ比較を可能とするために、「指導指針」によることを基本とする。
介護報酬改定の基礎データである経営実態調査の有効回答率が3割であったことは、社会的にも容認されない。エビデンスに基づく適正な報酬改定を求めていくことは、より質の高いサービスを提供する事業者としての基本的責任であり、会計処理能力の一層の向上に努める。
正確な会計処理を通して、ディスクロージャー(情報開示)の徹底を図り、透明度の高い経営内容を国民に提示することにより社会的な信頼を得ることに努める。
適正な給与と人員配置
介護サービスの充実は、優れた人材の業務遂行に尽きる。そのために、効率的かつ専門能力の高い人材の養成・確保に努める。
人事考課による公正・公平な職員処遇を実施するとともに、事業内容、サービス向上に応じた人員の適正配置に努める。
サービス向上の観点から、パート職員の運用、業務委託の導入などを含め、適正な労務管理に努める。
公益法人としての社会貢献事業
非課税法人として様々な恩恵に浴してきた社会福祉法人は、地域社会の福祉増進に貢献する責務がある。
低所得者対策は言うまでもなく、セイフティネットとして予防介護、地域ケア等への積極的な事業展開を推進する。
多機能複合事業とグローバル化
法人経営の基幹事業である特養ホームを中心におき、地域ニーズに即した複合的な関連事業を機能展開する。
結果として経営リスクを分散させ、多機能を付加価値として提示することにより顧客を獲得し満足させる。